日本で企業売却後、その資金をもとにアフリカで新たな挑戦をはじめられた株式会社 HAKKI AFRICA 代表取締役 CEO 小林嶺司さんに、なぜアフリカで起業しようと思ったのか、アフリカマーケットのポテンシャル、アフリカと日本のスタートアップ企業の違いなどについてお話を伺いました。
インタビュー相手
小林 嶺司 株式会社 HAKKI AFRICA 代表取締役 CEO
大学を中退し、インテリアEC事業で起業。のちに不動産事業を展開し事業売却。2019年よりアフリカにてHAKKI AFRICAを設立。途上国のマイクロファイナンスを始めとする、小~中規模の金融機関向けのCredit as a ServiceのAPI(越境信用パスポート)開発を主な事業とする。
初めに簡単な自己紹介をしていただいてよろしいでしょうか?
HAKKI AFRICAの小林と申します。AFRICAと付いているように、日本に一応、法人は存在します。子会社として、東アフリカで一番発展してる都市といわれるナイロビ、ケニアで起業しておりまして、中古車のマイクロファイナンスという事業をやっています。事業紹介をさせていただきますと、こっちだと貯金が不足していて銀行の融資を受けてビジネスを興す方が結構多いんですけど、そういう方々が銀行にアクセスしたときに、銀行の融資の審査に99%落ちるみたいな感じになっています。その99%の部分をカバーしてるのがマイクロファイナンス業界です。1000社ぐらいあるマーケットなんですけども、その中でも我々は中古車を担保としたマイクロファイナンスを行っています。マイクロといっても60~70万円ぐらいの車を買って、それを事業用に使うファイナンスをしている企業です。
企業売却した資金を手にアフリカへ
もう早速いろいろとお伺いしていきたいことがある中で、小林さんがアフリカで起業であったり、アフリカにたどり着いた経緯をまず教えていただけますか?
最初は大学生の時にアフリカを縦断しました。なぜアフリカに興味を持ったかはもう忘れたんですが、漠然とアフリカに行ってみたいとずっと思っていました。その時は19歳とかだったので両親に反対されました。さすがにアフリカを縦断するってクレイジー過ぎないかと。でも、「アフリカ大陸に行けなかったら、もう俺の人生は終わりだ」と説得して、アフリカに来たんですね。それはすごく鮮明に覚えています。エジプトから入って東南アジアを全部回ったことがあったんですが、その時もエジプトから入って南アフリカまで全部陸路で縦断しました。
それが10代後半とか終わりのときにされたということですね。
19歳のときかなと。アフリカにすごく興味を持って、いつかここで起業したいなっていうか、彼らと一緒に生きてみたい!て思ったんですかね。「共生したいな」と思ったのが最初のきっかけです。日本に一旦帰ってから、日本で事業を自分で行って、5年間ほど不動産系の事業を経営して、それを大手に売却することなりました。手元に何もなくなったところで、アフリカへの思いが再燃してきまして、戻ってきたという経緯です。
器用貧乏な自分を特別にしてくれたアフリカ
アフリカに呼ばれる、もしくはアフリカに共鳴するみたいなのが、どこか小林さん中であるっていうことなんですかね。
どっちかっていうと、コンプレックスみたいなところが、ずっと自分の中ではあったと思います。ずっと平均値で生きてきたんですよね。何をやらせても、下手ではないけど上手くはないみたいな。器用貧乏みたいなところにずっといたので、何かに特化して突き抜けてる人をすごく羨ましく思い続けてたっていうのがあって。だから何か特別になりたいという気持ちがずっとあったんだと思います。アフリカは自分が特別になれるところというか。アフリカに縦断して帰ってきたら、「アフリカってどんなところなの?」みたいなことをみんな質問してくれますし。そういうのはもしかしたら心の中であったのかな。
試行錯誤して見つけたビジネスポテンシャルはアフリカの闇でもあった
アフリカにいる日本人起業家たち
私も小林さん以外に、お恥ずかしながら存じ上げないというか、自分は知らないんですけど、アフリカもしくはケニアで起業されてる日本人の方とかって、どれぐらいの数、どういった方々がいらっしゃったりするんですか?
起業しているのは、ジャンルによるんですけど、日本食料理店で言うと、ケニアだと10人ぐらいはいると思います。そういう事業を含めると、アフリカ全体でも、たぶん100人ぐらいだと思っています。スタートアップっていう括りにすると、5人とかですね。
大陸でみたいな話で、そういった方たちとはやっぱり繋がりができるわけですか?
もちろんです。みんながっちり繋がっていて、スタートアップでいきなり知らないところが出てきた来たていうのは絶対ないです(笑)
他の方々は、どういった業界が多くて、どういった方々がいらっしゃったりするんですかね。
1人はSaaSの営業ツールですね。外資系の企業が営業員1人1人を管理できるSaaSをやってる方が1人。もう1人は結構がっちりなヘルステックですね。機械をヨーロッパから仕入れて、検査を小売で売っていくみたいな。あとはファイナンスも1人。一番有名のはWASSHAっていって、電気の小売ですね。こっちは電力網がないので、太陽光発電でオフグリッドっていって、オングリッドじゃないやつをやって、完全に家とか、1店舗1店舗のキヨスクって言われる店舗に電力をオフグリッドしていくみたいなことをやってる方だったりですかね。
ビジネスを模索する中で見えてきたアフリカの闇
それぞれのスタートアップ企業が、なぜそこのサービス対象事業の展開にたどり着いたのかって、すごくいろんな背景があるんだろうなと思うんですけども、小林さんの場合、ケニアやアジア、アフリカに元々興味を持たれたっていう中で、ビジネスとしてのポテンシャルだったり、ビジネスを本当にここでやるんだっていう手応え、きっかけや転換点みたいなのって、どういったところにあったんですかね。
実は僕、こっちに来てから6個ぐらい事業を試していて。経歴でいうと、元々ウェブデザイナーとシステムエンジニアみたいなことをやってたので、自分でアプリを作れるんですね。なので、最初はメルカリのアフリカバージョンを作ろうって思って、自分でスクラッチ書いてリリースしてみたんです。すごく難しいなと思ったのが、信用問題です。商品をアップロードすると、問い合わせがめちゃめちゃくるんですよね。「じゃあ売りますよ」と、商品を送るじゃないですか。着金しないんすよ、当然。「おい!」と思って、今度は買い手側になってみようって、「これ買いますよ」とか言うじゃないですか。そしたらもう頑なに商品送ってこないんですよ。「お前のことなんて信用ならない」って。先に払えって言われるんすよ。100%払うのはなぁって、50%デポジットで払うじゃないですか。逃げられるんですよ(笑) この信用不足みたいなところがずっとあって。ビジネスポテンシャルの面でいうと、6個ぐらいの試した中でも全部失敗して、全然ポテンシャルないじゃんみたいに思ってたんですけど、その信用不足みたいなところだけは、ずっと心に引っかかる深い深い課題、課題というよりも怨念に近いというか(笑)
怨念!(笑)
自分の中でこだわってしまったというか、もうこれちょっとムカつくなと。この課題を解決したらすごく深い課題に刺さっていて、プラス点がすごく大きいんじゃないかなって思って。
ビジネスポテンシャルの話に戻りますけど、日本だと、そもそもマイナスの部分が少ないんですよね。自分が知らないだけかもしれないんですけど、もちろん貧困問題とか日本でも言われてますけど、甘いな!と。向こうは1日あたり2 – 5ドルとかなんですよ。月間1万円ぐらいで生活しますという中で、日本の貧困って12万円もらってますって、全然貧困じゃないじゃん。こっちの12倍ありますよ、みたいな。課題が日本だとすごく浅いなってずっと思ってて、日本でもいろんなことを試そうとしたんですけど、ケニアでも6個ぐらい試して日本でも6個ぐらい試しました。でもやっぱり日本の課題は浅くて、やり甲斐ってそもそもあるんだろうかと思ったときに、投資家へのリターンは大きいんですよ。IRRでいうと、めちゃくちゃ大きいかもしれない。でもそれって命懸けられるんだっけ?と思ったら燃えてこなかったんですよね、自分の心が。単純にIRRだけ考えたら、絶対Web3なんですよ。100発やって一発、1000倍とか1万倍になってくれればいいやってところになってくるんです。もちろん業界自体を否定するわけじゃなくて、僕自身が心が燃えてこなかったっていうだけなんですけど。もうちょっと深い課題に踏み入りたいなって思ったときに、その信用の課題みたいなところが見えてきて、ビジネスのポテンシャルっていうよりは、深い課題を解決したいと思ったのが一番ですかね。
電子マネー普及率100%!? 電子マネーがケニアの治安を変えた。
現金を壺で保管していた社会が一気に電子マネーで管理する社会へ
生きているっていう実感じゃないですけれども、日本にいたら想像も想定もできないような現実、前提の違いみたいなものが、ところどころにあるんでしょうね。ケニアってどんなところなんですか?
面白いです。特に電子マネーですかね。日本でいうとPayPay。アメリカでいうとCash App、Venmoっていうアプリだったりとかいろいろあると思うんですけどケニアだとM-Pesaです。持ってない人がほとんどいないんですよ。SIMについてくるんで、電話番号を持ってるイコール銀行口座、モバイルマネー口座を持っていることになります。都心部においてはM-Pesaの普及率はデータでは90%と言ってるけど、100%だと僕は思っています。今までM-Pesa持ってないですって人に出会ったことないです。それってすごいですよね。日本で言うとPayPayを日本人全員持ってますということです。GDPは40%を回ってるって言われるんですけど、もう50%ぐらい回ってるんじゃないかなと思っています。日本で言うと500兆円ぐらいがGDPなんで、250兆円が1個のサービスで回ってます。すごいことです。もう地獄のような(笑)
これって日本人から言わせると、アフリカってまだまだ動物も多いですし荒野も多いでしょうけど、その一方で電子マネーも流行ってるっていうのが、想像つきにくいと思うんですよね。これは本当に面白くて、電子マネーがあることによって、犯罪がすごく減ってると、僕は仮説で思っていて。あ、ごめんなさい簡単に仮説じゃなくなっちゃった。M-Pesaが生まれる前って札束を持ち歩いてたんです。万円札とかないんで千円札なんですよ。最大紙幣が。これが100万円もすると、すごいことなるんで、それをみんな壺に入れたんですよ(笑)
うわぁ(笑)
壺に入れて、縛って家の下に隠したんですね。土の中に。だからもう腐っちゃって。
盗られちゃうとかじゃなくて、紙幣がボロボロになっちゃうってことですか!?
腐っちゃって、もしくは盗られるってこともありますし。銀行に持っていく途中で「お前壺を持ってるじゃん」って、もうバレバレみたいな(笑) これが一気に、20年前に生まれたM-Pesaによって全部解決されて、犯罪がほぼ起きてないんですよ。軽犯罪ばっかり起きてるんです。めちゃくちゃひったくりとかは多いです。ただ、重犯罪的に人殺して金を奪おうみたいのがなくなった。モバイルマネーにしか入ってないんで、人を殺したところで、PINナンバーがわからないと、その口座から引き出せないんであんまり意味ないんですよ。メリットがないんですよ、人を殺す。なので重犯罪はめちゃくちゃ減ってるんじゃないかなって思っていますね。
一つの側面で、それだけの大きなインパクトが起きているならば、これからもそうですし、ポテンシャルっていう大きな括り方で言っちゃうと、日本とは前提がよくも悪くも違うからこそ、これから大きな転換であったり変換がいろんな側面で起き続ける可能性が大いにあるってところですよね。そんな中で、せっかくなので、小林さんとHAKKI AFRICAでやられている事業について、もう少しだけお伺いできたらと思うんですけど、今の会社の状況や、これからの事業展開について簡単にシェアしていただけますか?
今はまだまだ小さくてこの前に2.8億円をリリースさせていただいて、それと水面下でリリース出してないんですけど、4.3億円を調達したので、合計で7億円強の調達額になっています。社員はまだ25名。結構絞り込んでやっていて、今はほとんどシステムで回そうと思っています。これからは、商材を増やす予定です。今は中古車のファイナンスなんですけど、タクシードライバーのファイナンスから徐々に個人用の普通のカーローンに広げているのと、トゥクトゥクってわかりますかね? タイとかで走っているトゥクトゥクのファイナンスだったり、ボラボラって言われている二輪のタクシードライバー、二輪の配達ドライバー、あとEVのバイクだったり。四輪、三輪、二輪……、一輪はないですね、までやって、EVも絡めてやって、商材がどんどん増えているのが、今の状況です。
アフリカマーケットの国ごとの特色を考える
展開の対象はケニアとかアフリカとか、そこの括りというか、枠みたいなのはどうなっているんですか?
アフリカって54カ国あるんですがマーケットが限られています。ケニアが一番やりやすいと感じるところがあって、まずケニアからやっています。三権分立になってるとかいろいろあるんですが、タンザニア、ウガンダあたりも元々イギリスの植民地だったのもあってやりやすさを感じています。なのでそこは来年ぐらいに広げようかなと思っています。あとは南アフリカ、エジプト、ナイジェリアの順番で1年ずつかけて増やしていこうかなと。
もう開拓者っていう感じですね。ケニアの現地の方々もいらっしゃるということですが、どういった構成でやられているんですか?
今は共同創業者が1人いて、2名で立ち上げたので、日本人が2名と、日本人の社員が1人だけいます。新卒でケニアに。
ものすごいチャレンジですね……!
その方が女性で1人。あとが残り23名がケニア人。
真面目で勤勉なケニア人と好戦的なナイジェリア人
うわー、そうなんですね! ケニアの方々っていうのは、お仕事をしていて特徴だったり、お仕事してると、どんなことに小林さん自身気付かれたりします?
まず日本と比べてと、新興国と比べて、があるんですけど、アフリカ全体で比べると、ケニア人は一番真面目で勤勉で、日本人に近い。
そうなんですね!
はい、よく原宿とかにいる、イケてる兄ちゃんみたいなのは、結構ナイジェリア系なんです。
ハハハ!! へえ、面白い
西のほうなんですよ。ナイジェリア行ったんですけど、先ほど言った軽犯罪っていうのは、ケニアはスリとかひったくりがめちゃくちゃ多いんですよ。店舗にスマホなんて置こうものなら当然取られますし、道端でポケットとかにスマホやっててもすぐに盗られますけど、重犯罪はないんですね。殺人事件とか暴力事件とか、そんなに多くないんですね。ただ、ナイジェリア系は行ったんですが、もう空港から降りた瞬間に銃声がバンバン聞こえて、検問を警察がやっていて、トラックが止められたんですけど止まらないとか。そしたら「やべぇ。チッ!」とか言って、アクセルをバーって踏み始めてバーっと引っ張って、警察の検問を突破して、警察も「おいっ!」ってパンパン!って撃ち始めて(笑) やっぱり好戦的だなって。
だいぶです!(笑)
ラゴスっていう都市が1200万人ぐらいの小さな地域に住んで思ったことがあります。ラゴス、東京都に似てるんです。東京もグッと詰まってるじゃないですか。それに似ていて、生存本能でそこのGDPはすごく低いのに人が集まってるので、「自分だけは生き残らなきゃ」みたいなところがあるんでしょうね。好戦的な方がすごく多いです。ケニアは勤勉、真面目。時間も守りますし、今は8時~5時でやってるんですが、7時半にはみんな座っています。すごく優秀な方が多いし、英語も話します。
既存事業を新しいテックでディスラプトする日本のスタートアップ 成熟してない市場でスタートするアフリカのスモールビジネス
日本で起業しなくちゃもったいない!
アフリカって一口で言うと、なんてことは絶対できないだろうし、その中でも現地にいらっしゃるからこそ日々、発見とか、もしかしたら戸惑いも含めて、あるのかなって感じました。そんな中で最後に、外に出られてるからこそ気づく、日本に対するポテンシャルを、もし小林さんが感じるところがあったら聞いてみたいと思うんですけれど、そのあたりどうですか? どんな考えがあります?
2つ思うことがあって。1つは日本のビジネスって、スタートアップの定義ってそもそも、既存事業を新しいテックでディスラプトする、みたいなところがあると思うんですけども、日本はディスラプトがすごいやりやすいと思っています。法規制はもちろんあるんですけど、もう既に市場が成熟してるので、そこに新しいソリューションをちょっと違った角度で差し入れるだけで、スタートアップが成功する市場だなってずっと思ってます。
新興国の場合って、圧倒的にアフリカは、そもそも市場が成熟してないので、ディスラプトじゃないんですよね。だからスタートアップって我々謳ってますけど、スモールビジネスに近いんですよね。時間軸しか解決手段がないっていうとこになってるので、月並みになっちゃうんですけど、日本で起業をしないのはもったいないなって。新しい考え方、新しいスタイルで、市場に新しい風を吹き込むようなパワーがあったら、すぐに理想とするスタートアップができるんじゃないかなって思ってはいます。
アフリカのネクストマーケットに挑戦してほしい
もう1つは、その一方で、海外に出てやるみたいなところで言うと、アメリカと日本と違うのももちろんなんですけど、アフリカと日本は圧倒的に違う。今まではアフリカにもっと人が来て欲しいなって思ってたんですけど、もちろん来ては欲しいんですが、相当時間かかるだろうなって思います。そこでスタートアップじゃない何か、新しいワードでも生まれてきたら、もうちょっとやりやすくなるのかなって思います。市場としてはポテンシャルはめちゃくちゃあるんですが、やっぱり時間軸の部分で合いづらいと思うので、ソーシャルインパクトの大きい投資が集まってきたりすると、もう少し時間軸が長くなったりとかして、スタートアップっていうよりは、ネクストマーケットとしてみたいな、何か違う言い方で、こっちに来る人が増えてきたらいいなって。今はスタートアップが1人歩きしちゃってるんで。スタートアップって、本来は短期間で一気に収益を上げる市場をディスラプトするみたいなところが多いと思うんで、それはアフリカだとできないですね。言い方を選ばないと、できないっていう言い方が近いですね。
ありがとうございます! 小林さんに、別企画でまたお話聞きたいなって思うぐらい、本当に盛りだくさんな内容になったんですけど、今日は、まずインタビューということでお話を聞かせていただきました。お時間いただいて本当にありがとうございます! 先ほどおっしゃっていたHAKKI AFRICA、小林さんのこれからの開拓および展開を応援しております!
ありがとうございます!
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